●DOGE(政府効率化省/Department of Government Efficiency)とイーロン・マスク
2024 年は、世界の政治が動く選挙イヤーだとコラムでメッセージしましたが、その象徴が11 月のアメリカ大統領選挙でした。
そして見事当選したトランプ氏の目玉施策となるのが DOGE(政府効率化省)の新設とそのトップに起用される政府外部のイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミ、2 人の実業家です。
イーロン氏は既にこの委員会によって米国連邦予算を 2 兆ドル削減、つまり政府支出に存在する無駄と不正を排除するといったコメントを出し世論を賑わしています。
ちなみに、この DOGE はアメリカ合衆国政府公式の省ではなく諮問委員会であるため、その指導部は上院の承認を必要とせず、大統領の承認を得て政策判断される。
これも実業家でもあるトランプ氏ならではの新たな政策ともいえます。
先日、トランプ氏はソーシャルメディアの Truth Social の投稿で「2 人の素晴らしいアメリカ人は、わが政権が政府の官僚主義を廃止し、過剰な規制を削減し、無駄な支出を減らすとともに、連邦機関を再構築する道を開くだろう」と発信しました。
またトランプ氏は、この DOGE を 2026 年 7 月 4 日の米国独立宣言 250 年の日までに解散するとも宣言しています。
とはいえイーロン氏は、今回の選挙で 1 億 8000 ドル(約 280 億円)という前例のない金額を献金していて、今後の政権に多大な影響力に持つことに批判も集まっていますが、Twitter買収後の約 8 割の人員削減した実績を評価する財界人も多くいます。
しかし、トランプ氏とイーロン氏の関係は、今回の選挙からではなく、2017 年にトランプ氏が大統領に当選した際に環境規制の問題からイーロン氏が CEO を務めるテスラの株価が大きく下落したのをキッカケにトランプ氏にすり寄ったのは有名な話です。
そしてイーロン氏は、スペースX による宇宙事業や太陽光発電事業など政府の補助金、公共投資する政府事業に積極的に乗り出し株価を上昇させた経緯があります。

●もう一つの DOGE(DOGE コイン)
そして、もう一つ注目すべきは「DOGE コイン」です。
暗号通貨に興味をお持ちの方はよくご存じだと思いますが、これはイーロン氏が 2013 年に発案、2021 年にイーロン氏のお気に入りコインというツイートから大きく上昇したことでも知られ、ビットコインとほぼ同じ機能を持ち決済スピードが早く、発行上限が無いことが特徴で時価総額は、2024 年 11 月 1 日時点で約 239 億ドルとなっていて全暗号資産における順位は 8 位で、アルトコインの中でも時価総額が大きな暗号資産の一つです。
とはいえ日本ではあまり知られてませんがイーロン氏の影響で大きく DOGE コイン損失を被った複数の投資家から集団訴訟を受けてるのも事実です。
また、トランプ氏がもっとも支持するコインとしても有名で、当選後は大きく急騰しています。2 人にどんな思惑があり同じ名前にあえてしたのか、一部では、ビットコインの代わりとして政府公認のステーブルコインになんていう噂まで流れており、今後も目が離せません。
●ソーシャルメディア戦略が政治を制す?
アメリカ大統領選挙でもう一つ注目されたのはメディア戦略です。
日本でも 7 月の都知事選の石丸氏の SNS の反響、11 月の兵庫県知事選での NHK 党立花氏による YouTube の影響によるオールドメディア対決も話題ですが、大統領選でも大手メディアの影響力の低下が浮き彫りになりました。
大手メディアの報道では、トランプ氏とハリス氏の接戦が連日報じられましたが、結果も翌日以降と報じられ、しかし結果はソーシャルメディアが報じてた通りトランプ氏の圧勝でした。もはや主流メディアが政治をコントロールする時代は終わり、力を失ってるというのが世界的世論です。
特に話題となったのはポッドキャストと TikTok、そして X です。
トランプ氏はジョー・ローガンとのポッドキャストでの対談で 24 時間以内に 2600 万回再生され、同じくローガンと対談したイーロン氏が出演した動画は 4700 万回再生するなど想定外の盛り上がりでした。
また X 投稿は、10 月 31 日から選挙当日の 11 月 5 日までの期間で、それぞれイーロン氏2370 万閲覧、トランプ氏 1040 万閲覧でした。ちなみにハリス氏の X は約 77 万閲覧でした。あきらかな違いが勝敗とリンクします。
イーロン氏がこのために買収したかどうかは分かりませんが、前回の大統領選で Facebookの活用で当選したと言われた経緯を考えるとまんざらでもないですね。今後のソーシャルメディア VS オールドメディアの対決も政治経済に大きく影響するのは間違いありません。
最後に 2024 年 12 月 17 日、ソフトバンクの孫正義氏がトランプ氏と記者会見を行い、今後 4 年間で 1000 億ドル(約 15 兆円)をアメリカに投資し、10 万人の雇用をつくり出すと宣言しました。
個人的にはもっと日本にもと言いたいところですが、一流の経営者はアメリカに投資し、日本に影響を及ぼすグローバル戦略の方が、日本の政府にも響くのかもしれません。
テック産業アナリスト 能任裕行