第一回ライオンズクラブ京都東 GP支部 先達塾から生まれた課題
ムーンショット目標が描く「夢の未来」は、私たちの命と地球、そして食卓を救うのか?
先日の第一回目の先達塾で話題になった内閣府が推奨する「ムーンショット目標」に興味
を持ったので、テック産業アナリストの立場で私なりに調べてみました。
ムーンショットという言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
月面着陸のような壮大な挑戦? それとも、なんだか SF じみた遠い未来の話?都市伝説?
調べてみると世界では、
アメリカ・カナダ・中国・EU・イスラエル・韓国・日本など 10カ国以上が取り組む国家プロジェクトで、現代社会が抱える最も根深い課題に、科学の力で挑もうとする、
壮大で、時に議論を呼ぶ取り組みでした。
ちなみに「ムーンショット」という言葉は、今は亡きジョン・F・ケネディ大統領が提唱し
たアポロ計画のように「非常に困難だが、達成すれば大きなインパクトとイノベーション
をもたらす壮大な目標」を指す言葉として広く使われています。
そしてこれは、単なる夢物語ではありません。私たちが直面する複合的な危機に対し、現
在の延長線上にはない「破壊的イノベーション」によって根本的な解決を目指す、まさに
「人類の未来」をかけた挑戦なのです。
人生 100 歳まで生きられるのか?
ムーンショット目標は 1~10 まであるのですが、今回は目標の説明ではなくコラムでよく取り上げる
「健康(病気) 」
「地球環境(エネルギー) 」
「農業(食料自給率) 」
3つのテーマを中心に主に日本の取り組みを書いてみました。
まず 1 つ目は、 【病気から解放される社会へ】です。
人生 110歳まで元気に生きるのを目標とする私にとって、身近で切実なテーマである健康
と病気についてムーンショットは取り組んでいます。
日本は世界でも有数の長寿国ですが、その一方で、高齢化の進展とともに、がん、認知症、
糖尿病といった生活習慣病の罹患率(りかんりつ)も上昇し、医療費の増大は社会保障制度
を圧迫しています。
これに対しムーンショット目標 2 は
「2050 年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」を、
そして目標 7 は「2040 年までに、主要な疾患を予防・克服し
100 歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現」
を掲げています。
想像してみてください。
あなたが健康なうちに、AI があなたの遺伝子情報、日々のライフログ、環境データなどを
総合的に解析し、将来、特定のがんや生活習慣病になるリスクを「超早期」に正確に予測
してくれる。そして、その予測に基づいて、あなたに最適化された予防プログラム(食事、
運動、生活習慣の改善、あるいはごく早期の介入)が提案されるのです。
病気になる前の段階でリスクを特定し、病気の発症そのものを未然に防ぐ・・・これは、
がん治療の進歩や、病気にならない社会の実現を根本から目指すものです。
また、私は富士通が推奨して福利厚生でもある遺伝子解析サービスを日々受けています。
興味深かった2つの医療プロジェクトを紹介します。
・大野 茂男(順天堂大学 大学院医学研究科 特任教授)
「生体内ネットワークの理解による難治性がん克服に向けた挑戦」
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal2/22_ohno.html
・高橋 良輔(京都大学 大学院医学研究科 特命教授)
「臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて」
プロジェクトマネージャー(PM)
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal2/24_takahashi.html
地球の未来を照らす光「人口太陽・ITER(イーター)」という究極のクリーンエネルギーへの挑戦
次は、世界共通の課題である【エネルギー問題】についてです。
人類の化石燃料への依存は、地球温暖化を加速させ、気候変動による異常気象を引き起こ
し、私たちの生活基盤を脅かしています。
また、エネルギー資源の問題は、国際的な緊張や紛争の種にもなり得ます。
この喫緊(きっきん)の課題に対し、
ムーンショット目標 10「2050 年までに、フュージョンエネルギーの多面的な活用により、地球環境と調和し、資源制約から解き放たれた活力ある社会を実現」として解決策に挑んでいます。
フュージョンエネルギー、つまり「核融合」とは、太陽の内部で起きている反応を地上で
再現し、莫大なエネルギーを取り出す技術のこと。この夢のエネルギーは、CO2 を排出せ
ず、燃料となる重水素は海水中に豊富に存在し、三重水素もリチウムから生成できるため、
燃料枯渇の心配がほとんどありません。
そして、この「人工の太陽」を実現するため、日本は EU、米国、ロシア、韓国、中国、
インドと協力し、フランスで「ITER(イーター)」という世界最大の核融合実験炉の建設
を進めています。
中でも日本の貢献は大きく、核融合炉の心臓部となる超伝導コイルの製造など最先端技術
でプロジェクトを牽引しています。現在、建設は着実に進んでいますが、その規模と技術
的困難さゆえに、当初の計画からかなり遅れていますが、これが実現すれば人類は、エネ
ルギー問題から完全に解放され、地球温暖化の脅威も根本的に解決されるかもしれません。
さらに、
ムーンショット目標 4「地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」も、
エネルギー問題に深く関連します。この目標では、CO2 を回収・資源転換する「カーボン
リサイクル」技術の開発などが含まれ、大気中から CO2 を直接回収し、それを燃料や化学
品の原料として再利用することで、再生可能エネルギーだけでは補いきれない CO2 排出量
を削減し、地球環境再生に貢献することを目指しています。
食卓の未来を守る食料自給率向上への挑戦
最後に、私たちの食卓と密接に関わる農業と【食料自給率】の問題です。
近年、ウクライナ情勢や異常気象、人口増加などにより、世界の食料事情は大きく揺れ動
いています。日本の食料自給率は、カロリーベースで約 38%(2022 年度)と先進国の中で
も低い水準にあり、もし輸入が途絶えたら、国民のほとんどが十分な食料を得られないと
いう厳しい現実があります。気候変動や国際情勢による不安定化、そして世界的な食料需
要の増加は、日本の食料安全保障を脅かす大きな課題です。
これに対し、
ムーンショット目標 5「2050 年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」を掲げ解決を目指します。
そして、この壮大な「食」の革新に挑むのが、国立大学法人東京農工大学 学長の千葉一裕氏のプロジェクトチームです。
(https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/moon_shot/index.html)
『90 憶人がおいしく食べ続けられる社会を創るために』をテーマに「食料供給の拡大と地
球環境保全を両立する食料生産システム」と「食品ロスゼロを目指す」を掲げます。
特に注目したのは「未利用バイオマスの有効活用」と「食料生産の効率化」ですが、私た
ちが食べ残したり、農業で捨てられたりする「食品廃棄物」や、木材として使われない
「林地残材」など、膨大な量の未利用バイオマスが毎日発生しています。
これらは現在、多くが焼却されたり埋め立てられたりしていますが、ここに宝の山を見出
しています。未利用バイオマスを、特殊な微生物や化学反応の力を借りて、「高付加価値
な食品素材」や「飼料」に変えるという革新的な技術です。これまで捨てられていた農作
物の茎や葉から、新しいアミノ酸やタンパク質を抽出したり、あるいは微生物に「食べさ
せる」ことで、食用になる油脂や高機能性成分を生み出す研究が進められています。
ゴミとなっていたものが、私たちの食卓を支える新しい食材や家畜・養殖魚の飼料に生ま
れ変わることにより、新たな土地を開拓したり、輸入に頼る飼料を減らすることなく、国
内での食料生産を支える基盤を強化できます。
他にも地球にやさしい「新しい食料生産システム」を目指し、AI や IoT を活用したスマー
ト農業の進化させたデータに基づいた「精密農業」への転換だったり、これらの技術が普
及すれば、私たちは限りある資源をより賢く使い、地球にやさしい方法で、質の高い食料
を安定的に生産できるようになります。
それは、日本の食料自給率を向上させるだけでなく、世界の食料問題解決にも貢献する、
大きな一歩となるでしょう。
「夢物語」か、それとも「現実」か?それとも「怖い目標」なのか?
ムーンショット目標が目指す「破壊的イノベーション」には、一部で「人権を無視した怖い目標」「管理社会への第一歩」といった懸念の声も上がっています。
特に、身体能力や脳機能の拡張、AI とロボットの共存といった目標は、SF の世界と結び
つけられ、倫理的な問題やディストピア的な未来を想像させることもあります。
果たして、これらは本当に「怖い」のでしょうか? 内閣府は、ムーンショット目標の究極
の目的は「人間の幸福」であると強調し、研究開発においては「倫理的・法的・社会的課
題(ELSI)」への徹底的な配慮が不可欠であるとしています。
技術が可能だからといって、すぐに実現するのではなく、プライバシー、人間の尊厳、責
任の所在といった問題について、社会全体で議論し、合意を形成するプロセスを重視して
います。
ムーンショット目標は、まさに私たちの「夢」と「現実」、そして「希望」と「課題」が
交錯する、今までマンガの世界でしかなかった第二の未来予想図なのかもしれません。
また、 「ITER(イーター)」のように未来目標を各国が共有し、手を取り合うことで世界平
和に結びつくキズナとなることを私は願っています。
テック産業アナリスト のと裕行でした。
ありがとうございました。

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