テック産業アナリスト-のと裕行のライフイノベーションコラム-13
農業(Agriculture)×テック(Technology)= 農業テック(AgTech・アグテック)① ~人類の課題に挑む農業~

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2020年4月25日

2020年4月23日の日経クロステックの電子版の記事に『元日産の肩書を持つ2つの電池メーカーが、2020年に勝負を仕掛ける。いずれも、日産自動車が電池戦略を転換したことをきっかけに、“外”に飛び出した企業だ。1社はEV向けではなく定置用電池で攻め、もう1社はEV向けだがセル形状として世界で主流のタイプを採用する』とありました。

 わたしはこの記事を見た時に2つの思いが巡り、元々、日産は三洋化成工業とリチウムイオン電池を共同開発してきたそうですが、今は、日産の元社員がCEOを務める三洋化成工業の子会社として設立されたAPB社にライセンスが供与されました。つまり日産の「テクノロジーライセンス事業」という経営方針の転換により自動車以外にも、またAPBの「次世代型の全樹脂電池開発」という新たなビジョンにより、約80億という資金調達も含め「オールジャパン体制」の企業が誕生し世界へ発信したのです。

 そして、もう1社のAESC社(元日産電池子会社)は、中国の再生エネルギー大手の傘下となり、3年以内に3倍の技術者1000人を目指し、更に外国人比率約50%のグローバル企業へと新たな道を歩み出したのです。 

 今までグローバルな時代というと、外国語を学んだり、海外で取引する企業などのイメージでした。しかし、現在のコロナ対策を見ても分かるように、常に海外と比較され、経済や観光だけではなく、政治外交や世界の法、国内の法というグローバルスタンダードの世界に、わたしたちが生きてるのを実感します。日産の経営判断が正しかったかどうかの答えはこれからですが、“外”へ飛び出したことによって、世界、日本へ貢献し、今まで見えなかった“内(日産)”がより見えるようになったのは間違いないはずです。

 今回は、今話題の【農業テック・アグテック】についてお話しますが、これらも市場は世界というグローバルスタンダードへ向かっています。日本に何が出来るのか、世界の中で日本が何に注目されてるのかを、お伝えできればと思います。

2050年に訪れる世界の食糧危機を救へ

この【農業テック・アグテック】は、農業(Agriculture)とテック(Technology)を合わせた造語ですが、わたしがこのテーマをお伝えしたかったのは、3つの理由があります。

1つ目は、FAO(国連食糧農業機構)や農林水産省がメッセージする2050年の人口増加にともなう食糧問題です。2つ目は、【農業テック】により世界の食の未来が、大きく変革している現状を皆さんにも知って頂きたかったのと、3つ目は、世界の投資家も注目する日本の【農業テックのイノベーション】が、テック産業の中でも最も熱いからです。

先ずは、2050年の食料問題ですが、これは世界の人口が30年後、約30%上昇し96億人以上になった場合、供給量を現状より60%増加させなければならないという人類の課題です。そして、それには、いかに安全な食料を確保し、食品ロスをなくすかが問われています。しかし私は、この食糧危機問題を人類は乗り越えられると信じています。単なる楽観視ではなく、実はよく考えてみれば、今から30年前に比べると人口は約30億人増加しています。つまり、これからもし30年後に22億人増えるのに比べれば、世界農業の知恵(テクノロジー)は乗り越えて来たからです。

まして日本は、2008年にあった世界の食糧危機で穀物価格が3~4倍高騰し、途上国では食糧配給で長い列を作った時でさえ、食糧危機を感じませんでした。戦争など軍事的な理由で流通のシーレーンが破壊され、政治的機能が侵された場合は別ですが、そんなことはありえないと信じています。

下町ロケットの世界が現実に

そして、これからの世界の食の未来を牽引するのが【農業テック】です。

今回は、AIやIoTなど世界のテクノロジー、日本のテクノロジーによりイノベーションを開発実現する、ジャパンスタンダード農業の世界を簡単にご紹介致します。

見られた方も多いと思いますが、TBSドラマ「下町ロケット」で、宇宙から農業に立ち向かうセカンドシーズンで、阿部寛演じる佃社長の一言『日本の農業の未来を救いたい』から始まり「無人トラクター《ランドクロウ》」を完成させ販売にこぎつけた、あの夢をあきらめない信念と熱意は、日本の【農業テック】の現状に繋がっています。

番組でも取り上げられた、「ロボットトラクター」は、クラウド技術を使って気温や湿度、日射量、CO2濃度、土壌水分などの環境をスマートフォンでチェックできる「モニタリングシステム」など、まだまだテクノロジーの可能性は広がります。

また、世界が注目する「植物育成用LED照明」を使った気候変動に左右されない植物工場は、もう既にスーパーで当たり前のように並んでいます。植物工場のテクノロジーは、食用だけでなく様々なシーンにも取り入れられ、代表的なのは、シアトルのAmazon本社にはガラスドーム型のハイテク温室(植物工場)「Spheres」が造られAI技術により野菜(ビル内カフェで食べられます)だけではなく、主に熱帯・亜熱帯にある貴重な植物が植えられています。そして、2020年4月22日のYahoo!のトップニュースに『最注目のドイツ・ベルリンの都市型農場スタートアップ「Infarm」に日本企業も熱視線』という記事が出ました。今夏、日本進出する同社の組み立て式植物工場は、日本の農業をリサーチし、現在は65種類以上の葉物野菜が作れるそうです。ドイツでは、今後このテクノロジーを新型コロナウイルス失業者や中小企業支援策としても活用されるそうです。

まだまだ、様々なテクノロジーがありますが、一番のオススメは、「農業プラットフォーム」です。これからどこがメインのプラットフォームになるのかは、まだ決まってはいませんが、ベンチャーやスタートアップ企業がどんどん進出し楽しみです。農家と販売店、流通、直接消費者を紹介したり、サービスも様々です。

その中でも群を抜いているのは、イスラエルのTaranis社の高解像度の画像とAIによるディープラーニング技術を融合したプラットフォームサービスです。航空画像とAIを融合させ、環境変化や病害虫の早期発見など、いち早く対策を提案するシステムですが、可能性は、はかり知れません。

これから日本でもマンション内の家庭内農園で、とれたての新鮮野菜を朝食で味わうライフスタイルの実現も近いかもしれません。

次回は第二弾として、農林水産省が取り組む【スマート農業】についてお話します。

テック産業アナリスト のと裕行でした。
ありがとうございました。

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