ウクライナは、隠れた IT 大国
ウクライナといえば農業大国のイメージが強いですが、
つい先日の 5 月6日にもロシア軍 の侵攻により約 2500 万トンの穀物が輸出できずに世界の食料安全保障を脅かしていると国連の発表が報道されました。
しかしこの数年、ウクライナのテック産業は目覚ましい成長を遂げ、実は IT 国家としての側面も持っています。
現にゼレンスキー大統領は、ロシア侵攻の直前までは
1 ウクライナから多くのスタートアッ プを輩出したい
2 2025 年までにGDPに占めるテクノロジー分野の割合を4%から10%に拡大する
3 金額ベースでは165 億ドルまで拡大する
4 ウクライナを欧州最大のテクノロジーハブにしたい
と語っていました。
そして、2019 年には「ウクライナ・スタートアップ・ファンド」 を立ち上げ助成金を政府は出し、
国内には 4000 社以上のスタートアップ企業が存在してい ました。
その代表格が、オンライン英文校正ツールを提供するユニコーン企業「グラマリー」 や、
昨年 10 月に上場した世界がもっとも注目するOSS ホスティングサービスの「GitLab(ギットラブ)」です。
ちなみにギットラブは、アメリカ航空宇宙局、SONY、スペースXなどが利用しています。
そして現在では、「東欧のシリコンバレー」と呼ばれるようになりました。
このウクライナでの IT ビジョンをゼレンスキー大統領が公約として打ち出し、その立て役者がデジタル改革省の陣頭指揮を執る 31 歳の若きリーダー、ミハイロ・フェドロフ副首相 兼デジタル変革大臣です。
また政治経験がなかったゼレンスキー大統領が出馬の際もフェ ドロフ氏がサポートし当選に導いたともいわれ、
今回のロシア軍の侵攻直後から SNS を駆使した世界への発信やサイバー戦略など電子戦と言われる IT を活用した戦術も、若き大臣が支えているのです。
戦災下でも行政手続きができる政府公式アプリ「Diia(ディーア)」
もともとデジタル改革省は、行政サービス 100%デジタル化を第一目標に掲げ 2019 年に発足しましたが、
そのメインプロジェクトが政府公式アプリ「Diia」です。
出生届・住民登録・所得税に支払い・運転免許証の更新・確定申告や、各種デジタル証明書 (運転免許証・パスポート・学生書証など)の役割など 72 種類の行政サービスがこのアプリ で利用可能という優れものです。
そして驚きなのは、戦災下で必要とされる様々な機能をアプリがワンストップ(複数のこと を 1 カ所で処理)で提供しています。
また「Diia」は、国と国民が直接繋がることを意味し、「スマートフォンの中の国家」というゼレンスキー大統領の政権の中核となるアプリケーションだともいわれ、新型コロナウ イルスの摂取証明も搭載されています。
そして更に注目したいのは、戦時下による国防にも、このアプリが貢献していることです。
・国営テレビのニュースの配信
・検問所での身分証明書
・被災補償の申請
・ロシア軍の目撃情報の提供機能
・ウクライナ軍支援のための募金プロジェクトの開催
などなど、地雷原と化した危険な道を通りわざわざ役所へ出向く必要も、ペーパーレスで避難により書類を取りに行く必要もなく最大限活用されています。
現在、「Diia」のダウンロード数は国民の約 4 割といわれてますが、ユーザー数は日に 6万人ペースで伸びているそうです。
フェドロフ大臣は、インタビューで
「テクノロジーで世界を変えることができる。
そして、 地球上でリーダーになるために、技術(テック技術)こそが我々のツールになる」
と語ってい ました。
日本もデジタル庁が発足し行政サービスの DX 化が進んでいますが、リーダーとなるために政治家はどこまでこの重要性を理解しているのでしょう。
国の違いはあるにせよデジタル社会は、世界中の誰もが地球市民という SDGs ビジョンには必要不可欠な取り組みです。
わたしは思うのですが、戦争が終結したときウクライナのビジネスや政治的環境がどのように変化するのかは今は分かりませんが、少なくとも国連が新たに求める政治的スタンダ ードや様々な取り組みに注目が集まるのは間違いないはずです。
その参考となる出来事が他にもいろいろとありました。
次回へ続く
テック産業アナリスト のと裕行でした。
ありがとうございました。
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