テック産業アナリスト-のと裕行のライフイノベーションコラム-16
農業(Agriculture)×テック(Technology)= 農業テック(AgTech・アグテック)④ ~未来の農業が目指すエシカル消費~

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2020年5月16日

2020年5月15日、アパレル大手のレナウンが、新型コロナウイルスの影響に伴い、東京地方裁判所に民事再生法の申請が受理されたと報道がありました。2020年の東証1部上場企業の倒産は、これが初めてで、負債総額は138億円です。レナウンは、2010年から中国大手の山東如意科技集団から出資を受け傘下に入ったそうですが、親会社自体も新型コロナウイルスの影響が大きかったのか、レナウンからの売掛金の支払いを滞ったのも大きな要因のようです。

 正直ショックが隠し切れません。以前コラムでもコロナアフターの話をしましたが、今後の日本の企業の在り方が問われたメッセージのようにも感じています。

 レナウンといえば、創業者の佐々木八十八さんの娘、板野惇子氏がモデルとなったNHK朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」(芳根京子主演・2016年放送)が記憶に新しいですが、今も忘れられないのは、物語のキーとなった亡き母の教え【四葉のクローバー】です。その意味は、人生に於いて「勇気」「愛情」「信頼」「希望」の4つ葉が全部が揃うと人は【幸せ】になれるでした。

 戦後の焼け跡から子ども服作りを始めた主人公が、様々な困難を乗り越え【幸せ】を集めます。そして【幸せ】となった主人公の次なる【幸せ】は、【四葉のクローバー(幸せ)】を愛する他人(家族・友人・消費者)に贈ることでした。

 なかなか現実は、こんなドラマチックにはいかないですが、今こそ人にとって、企業にとって本当の【四葉のクローバー(幸せ)】が何なのかを考える時だと思います。しかし、以前も以後も変わらないと信じたいのは、企業が消費者に商品を提供するということは【四葉のクローバー(幸せ)】を贈ることだという主人公の母の教えです。

 あなたは今、【幸せ】ですか?

エシカル消費の時代

皆さんは、【エシカル消費】という言葉を聞いたことがありますか?

 これは消費者庁が推奨する人や社会、環境に配慮した消費行動のことです。直訳すると「倫理的な消費」という意味なんですが、これはSDGsの12番目の目標である「つくる責任つかう責任」にも関連し、世界的にも注目されているキーワードです。そして、これからの農業、食にとっても大きなテーマでもあります。

 日本農業新聞の4月9日の記事を参考に説明すると、『新型コロナウイルスとの闘いの中から、二つの行動が日本に定着する兆しが見える。テレワークと倫理的消費(エシカル消費)だ。エシカル消費は、地球、地域、人に配慮した商品を購入し消費することだ。日本での普及は欧米に比べ遅れている。だが今、「買って応援」的な購買行動として社会的な盛り上がりをみせる』とありました。

つまり、どこの国のどの場所で、どんな人が、どういう思いで作った商品なのかを配慮して消費する時代になったということです。ちなみに買って応援は、休校により給食用に納品される予定だった食材を、農林水産省がマッチング支援するキャンペーンです。

しかし、逆の場合もあります。1988年に全国初の「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定し町を挙げて「有機農業の先進地」として広く知られている宮崎県・綾町ですが、収穫された有機野菜と一般的なオーガニック野菜との差別化がなかなか出来ず悩んでいたそうです。それは、例えば有機野菜特有の虫食いだけが注目され、培ってきた50年の農業の歴史が見た目では判断できず、結果、手間が掛かった経費を上乗せ出来ないジレンマがあったそうです。しかし時代が進み、2016年から新たな取り組みも始まりました。そして私はその取り組みを応援しています。

商品や企業の取り組みを「応援する時代」

話は変わって「トレーサビリティ」をご存知ですか?

 これは、食べものの安全と品質を守るため、「いつ、どこで、誰によって栽培・生産され、加工し、どのような流通経路を経て店頭に並んだのか、更には廃棄まで」その一連の流れを、それぞれの場所まで遡り、追跡出来る仕組みのことです。そしてこのシステムにより、もし食品トラブルが発生した時に、生産・加工・流通、どの段階に問題があったのかを速やかに把握出来ます。皆さんもご存知の宅配サービスの配送状況の確認のシステムも同じです。

また日本では、2003年にBSE(狂牛病)問題をきっかけに農林水産省が「牛トレーサビリティ法」と「米トレーサビリティ法」「食トレーサビリティ法」という法律が出来ました。

また、「ISO9000シリーズ」の中にも定義付けられています。他にも、デジタルテクノロジーの進化により、ICタグによる牛肉などの管理や、バーコード・QRコードも同じで、更にはリサイクル法に伴う家電や自動車の資源処理についても
「トレーサビリティ」が取り入れられています。

 そして綾町では、新たな取り組みとして、ブロックチェーン技術を活用した「トレーサビリティ」のシステムの構築をスタートしました。ブロックチェーンは、仮想通貨を生み出し、改ざんが出来ない技術ですが、これを有機野菜に置き換え、栽培過程から加工、調理、流通、販売、消費までをブロックチェーンに記録し、まるで通貨を扱うように、コミュニティ作りからインセンティブまでを新たな「トレーサビリティ」として現在、展開しています。これこそエシカル消費です。興味のある方は是非「買って応援」してください。

 コロナアフターの時代は、作物という商品がお金のように、また生きてる人のように、個人情報があるように、そして消費者は、それらを新たな品質【エシカル品質という信用】が、未来の商品の価値を決める判断材料となるでしょう。

テック産業アナリスト のと裕行でした。
ありがとうございました。

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